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長野市の数ある魅力をコラムでご紹介していきます。第1弾は「北信濃そばロードを行く」です。どうぞごゆっくりお楽しみください。
最終回 手打ちそば“三たて”体験でそばを極める
 「北信濃そばロードを行く」と銘打って始まったこのコラムも、とうとう最終回を迎えました。これまで、北信濃の奥の深いそばの世界を巡り、たくさんの方と出会い、たくさんのそばを食べてきましたが、やはり最後は自分で実際にそばに触れ、打ってみるのが、このコラムの最後にふさわしいのではないかと思い、「そば打ち」に挑戦することにしました。
 伺ったのは、長野市戸隠の「株式会社おびなた」。同社は、製粉・製麺工場を経営するかたわら、一年を通じて手打ちそば体験ができるそば道場を運営しており、事前の申し込みさえあれば誰でも体験できます。
 早く「そば打ち」を、とはやる心を抑えて、まずは「そば」をより知るために、工場見学をさせてもらうことにしました。一週間前に予約をすれば、同社の見学コースを無料で案内してくれます。
 「工場の敷地の周辺にはそば畑が20町歩あり、9月の初旬の花が咲く頃はとても素敵ですよ」という生産本部部長代理の八田さんのお話に、そばの可憐な白い花を思い浮かべながら、最初に通されたのは製粉コーナー。なんと48台の石臼が一堂に回っています。どの臼で挽いた粉も品質を均一にするよう、石臼ごとの性質を見極めて、上下の石の隙間のあけ方、回転速度を微妙に調整しているとか。
 ふと気づくと真ん中のラインは、回転方向が右回りだったり左回りだったりします。この列の石臼はかつて
水車小屋で使われていたもので、小屋のどちらに川が流れていたかで、粉を挽く回転方向が違うそうです。今も現役で頑張っている石臼に感動しきりです。
 できたそば粉は人の手が触れないよう、製麺ラインにパイプ輸送されます。そして水や小麦粉などを加え、麺帯にして徐々に薄く延ばしていきます。最後に3メートルの長さに切られて上の階にある乾燥室に向かうのですが、その様子はそばがまるで生きているかのようで、不思議な感覚を覚えます。
 乾燥は4段階に分け、11時間から12時間かけて行なわれるそうです。高温で一気に乾燥させるのではなく、じっくり時間をかけるのは、そばの風味を損なわない工夫だとか。乾燥室はどの部屋も一年中、同じ温度、湿度、風力に保たれているそうで、品質に対するきめ細かな配慮と愛情が感じられます。
 乾そばは、さらに裁断工程を経て、品質管理スタッフの厳しい目でチェックされてようやく製品になります。同社では、年間に乾そばだけで4500トン〜5000トンの生産量があり、このほかに生麺、半生麺、中華麺などの製造もしているそうです。
 こうしてじっくりと製造過程を見せてもらうと、「おいしいそばを食べてもらいたい」というそばに込められた思いは、乾そばも手打ちそばも同じなんだ、ということが伝わってきます。今まで以上に、ますますそばへの愛着が増してきました。そこで、気合も新たに、いよいよ「そば打ち」に挑戦です。
 講師の先生はいずれも地元のそば打ち名人ばかり。私は野池先生にご教授いただきました。まず、こね鉢にそば粉を入れ、ここに熱湯を注ぎます。この時立ち上がるそばの香りがたまりません。もちろん、製粉工場の挽きたての粉なので水でもつながりますが、その昔、戸隠ではそばをお湯で打っていたそうで、「打ち方は戸隠流に
こだわりたい」という大日方社長の方針で、私たちは戸隠そばの本流を体験することができるのです。 
 お湯で水分を馴染ませたところに、今度は小麦粉を加えてよく混ぜ、さらに水を入れて本格的な水回しに入ります。ここが序盤戦の最大のポイント。粉たちがまんべんなく水分をまとっていくと、自然にそばの塊が大きくなっていきます。ここから捏ねを150〜200回。聞けば気の遠くなるような回数ですが、徐々にしっとりと、そして照りをますそば玉の変化が楽しくて、それほど長い時間とは思えません。
 そしていよいよ延しです。野池名人は、あまりにリズミカルにそして自然にやるので簡単そうに見えるのですが、自分でやるとこれがなかなか思うようにいきません。ここは慌てず、でもそばが乾燥してしまわないうちにできるだけ急いで、不恰好でも先生の仕草を真似てなんとかクリアしました。しかし、分かってはいたものの、そば打ちは本当に奥が深くて難しい。「あの店のそばはどうこう…。」とのたまっていた自分を反省することしきりです。最後は切り。ここまでくれば麺線が不ぞ
ろいなのはご愛嬌。もう達成感と満足感で一杯です。
 打ちあがったそばは、生麺のまま持ち帰ることもできます。でも、挽きたて、打ちたて、茹でたての“三たて”を味わいたいなら、この場でいただかない手はないでしょう。自分で打ったそばは、不揃いながらも格別の味がしました。
 体験の料金は、一鉢(そば粉350グラム、小麦粉150グラム)で3150円。約3人分できます。一鉢を仲良く打つ家族連れも多いとか。
予約は、「おびなた・そばであいかん」TEL:026-254-3828までお電話にて申し込みください。「そば打ち体験」は「おびなた」以外にも、「とんくるりん」や「そば蔵」など、長野市内には「そば打ち体験」ができるところが 幾つかあります。
 今回の経験で、「信州のそば」は探求すればするほどはまってしまう素晴らしい世界であることを痛感しました。「そば通」などと呼ばれるのは撤回して、この奥の深い世界へもっとどっぷりと入り込んでみたいと思っています。
北信濃の気候風土によってもたらされた上質なそばと清らかな水、そしてそれらに関わる人たちの、そばにかける愛情。そのどれひとつかけても、おいしいそばにはなりません。そして、そのすべてがそろっているのが「信州そば」なのです。
このコラムを読んでくださった皆さんが、「信州そば」を楽しんでいただければ幸いです。感謝を込めて。
著:
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