北アルプスの絶景と里山の風景を楽しむ長野100kmロング&ヒルクライムライド

善光寺や戸隠、松代、飯綱高原など、歴史文化や自然にまつわる観光資源が豊富な長野市。北陸新幹線が停車する長野市はアクセス良好なことに加え、北信濃エリアを観光する際の玄関口としても便利です。それは輪行(公共交通機関を利用して専用袋に入れた自転車を運ぶこと)でサイクリングを楽しむサイクリストの皆さんにも同じこと。駅で自転車を組み立てる人の姿もよく見かけます。

そこで、今回はJR長野駅を拠点に、ながの観光コンベンションビューローのサイクルツーリズム専用サイトNAGANO CYCLINGで紹介している人気サイクリングモデルコースのひとつ鬼無里大望峠&峰方峠コースを実際に走ってみました。

 

交通量の少ない穴場ルート「長野戸隠線」

長野市北西部の秘境・鬼無里(きなさ)の自然や遠く北アルプスを一望できる「大望峠(だいぼうとうげ)」と、洞門の先に北アルプスの絶景が広がる白馬村の「峰方峠(みねかたとうげ)」の2つの峠を越える「鬼無里大望峠&峰方峠コース」は、本格的な山岳コース。全長100km超、獲得標高約1,800mの上級者向けで、ヒルクライム好きサイクリストの間では人気のルートとして知られています。

コースの概要は、JR長野駅東口から北西の山間地である戸隠地区を経て大望峠へ。そこからのどかな風景が広がる鬼無里地区を走り、白沢洞門(しらさわどうもん)で峰方峠を越えて白馬村に行き、長野駅まで戻ってきます。

このルートを1日で巡るのが今回の行程です。出発は朝7時。長野駅まで輪行で来る場合は、駅東口エスカレーター下が、長野市から推奨されている輪行作業(自転車の組み立てやパッキングなどを行う)スペースです。ただし、専用エリアではないので、ほかの利用者の迷惑にならないようご注意を。東口1階の「お忘れ物承り所(9~18時営業)」では空気入れと簡易工具セットを無料で借りることもできます。

ちなみに、この東口に立つ聖火トーチ型のモニュメントは「夢と希望のメモリアルタワー」。長野五輪開催10周年を記念して2008年に設置されたもので、1,500名近くの製作協力者の名前が刻まれています。

では、いざスタート! 実は晴れ予報が見事に外れ、残念ながら小雨がぱらつく空模様での出発となりましたが、午後の晴天を信じて出発です。

市街地を一気に抜け、善光寺西側の郊外へと進みます。

ところで、サイクリストにとって、ストレスなく快適にサイクリングを楽しむには「自動車の交通量が少ないこと」・「道(路面)の状態が走行に支障がないこと」・「ストップ&ゴーができるだけ少ないこと(=信号が少ないこと)」といったポイントが大事。「NAGANO CYCLING」に掲載のコースは、この3つのポイントにこだわってコースが練られています。もちろんそれだけではなく、「ほどよく起伏のある地形」や「きれいな風景」も長野でサイクリングする際には重要なポイント。そんな条件を満たしてくれるのが、今回のコースです。

郊外をめざして国道406号線を進むと現れる「茂菅(もすげ)大橋」を越え、「頼朝山トンネル」手前を左折したら、18kmほどのヒルクライムが続く長野県道76号「長野戸隠線」へ。この道は「戸隠バードライン」「浅川ループライン」などと並ぶ長野市街地から戸隠高原への路線ながら、車の交通量が少ない穴場なルートです。

【長野戸隠線】長野市茂菅地区〜戸隠地区 約18km/前半は平均勾配5%ほど、中盤から後半は2〜3%の上り坂

山道を上っていくと、左側、裾花川の対岸に見えてくる集落は、裾花台団地。急流の河川が深い渓谷をつくり、連なる里山のなかに集落が点在する風景は長野ならではです。

4kmほどつづら折りの山道を上り、緩やかなアップダウンを経て、芋井地区へ。りんご畑や棚田が広がるなか、曲がりくねった狭い道が続きますが、山間の素朴な里山風景に心が和みます。

しばらくして見えてくるのは、趣のある上ケ屋(あげや)地区のバス停。ノスタルジックな雰囲気が漂い、思わず写真を撮らずにはいられません。そしてバス停があることからもわかるように、この「長野戸隠線」は車通りが少ないものの、沿線住民の生活の足として、時折、路線バスが通過するので走行にはご注意を。

この上ケ屋バス停の分岐を右方向に行くと飯綱高原へとつながりますが、今回はまっすぐ進んで戸隠高原方面へ。しばらくは緩やかな上りが続きます。

ちなみに芋井地区は、主に江戸時代に建立された約1,300基の石碑があり、その数は長野市内最多だそう。道中に多くの神社が点在していることからも、信仰の厚い地域であることを実感できます。

雄大な戸隠連峰が間近に迫る戸隠高原へ

次第に見えてくるのは、芋井第一分校(休校中)。さらに進んだ先には北アルプスの絶景が! というのが晴れた日の風景ですが、今回は残念ながら雲に覆われていたため、別日の晴天時の写真をご覧ください。北アルプスの山々と段々畑などが調和した、長野らしいのどかな風景です。

雨は止み、少しずつ晴れ間も見えてくるようになりました。

この先は戸隠地区へと入っていきます。飯綱高原へと続く県道404号「栃原北郷信濃線」との交差点を越えると、前方にノコギリの刃のような山並みが連なる戸隠連峰が見え、気持ちがいい直線の下り道に。季節感のある風景を楽しみつつ、軽快にスピードがあげられるエリアです。

また、この直線沿いには「栃原北郷信濃線」との交差点一角に公衆トイレがあり、さらに先の約2km以内に2つの公衆トイレがあります。茂菅地区からは長めのヒルクライムなので、一息つくのもいいかもしれません。

右側に飯縄山が見え、そば処・戸隠ならではのいくつかのそば製麺工場を経て、緩やかな長い上り道を進んだ突き当たりで、戸隠の主要道路である「戸隠バードライン」と合流。車通りが多くなるので慎重に進みます。

突如、眼前に戸隠連峰がそびえ、戸隠神社宝光社へと宿坊が連なる「重要伝統的建造物群保存地区」に。山岳信仰と人々の暮らしが息づく戸隠らしい風景です。

この先を進むと、宝光社を経て中社や奥社といった人気の観光名所になりますが、今回は「奥裾花渓谷(おくすそばなけいこく)」と大きく書かれた案内標識に従い、宝光社手前にある「そば処 よつかど」のT字路を左折。戸隠連峰を横目に通りつつ、県道36号「信濃信州新線」を鬼無里地区方面へと進路をとっていきます。

上り坂の苦労が報われる大望峠の大パノラマ

さて、鬼無里方面に向かうと「これまで苦労して上ってきた坂は何だったの…」と思うような急な下り坂に。そして、川にかかる小さな橋を渡ると、再び急坂を上り返します。2km下って、3km上るイメージ。その先が、目的地のひとつ「大望峠」です。

【信濃信州新線】長野市戸隠宝光社地区〜大望峠 約5km/前半は平均勾配約8%の下り坂、後半は約6%の上り坂

この「信濃信州新線」も交通量が少ないながら狭い急カーブの繰り返しで、走行した2021年秋の時点では複数箇所で道路拡幅工事が行われていました。工事は2023年度で全区間完了予定だそうですが、2022年現在は戸隠側の拡幅・舗装工事は終了し、自転車で走りやすくなっています。また、戸隠と鬼無里を結ぶ赤い「紅葉橋」は、工事による迂回のためにもう1本橋が架けられており、この「ダブルウェイ」が見られるのは工事期間だけ。完了後は従来の赤い橋を残して迂回路は撤去されるので、ある意味では貴重な経験ができます。

この工事区間を経たら、標高1,055mの「大望峠」はすぐそこ。坂を上りきった先に絶景が待っています。

残念ながら、今回はやや雲に覆われていたものの、右側には戸隠連峰の荒々しい岩肌が間近に迫り、その左側には、鬼が一夜でつくったという伝説が残る鬼無里の独立峰「一夜山(いちやさん)」を望むことができました。

一帯はベンチや東屋が設けられた広場の展望台になっていて、天気がよい日は北アルプスの大パノラマが遠望でき、眼下の谷沿いには鬼無里地区の自然が広がるとあって、カメラマンに人気の絶景スポットです。春先であれば残雪の北アルプス、紅葉シーズンには秋化粧する山々を見渡すことができます。

木製の標柱に書かれた「伝説の谷」とは、鬼女紅葉伝説や木曽義仲にまつわる伝承が残る鬼無里のこと。「紅葉」という名の鬼女を退治したことで、鬼のいない里=鬼無里という地名になったという伝説が秘境感を高めてくれます。

トンネルを抜けると絶景であった

大望峠から鬼無里の中心部までは、急勾配の下り坂を一気に下降。ただし、道が細いうえ、ところどころ急カーブがあるので注意が必要です。

【信濃信州新線】大望峠〜鬼無里中心部 約8km/前半3kmは平均勾配約8%、後半5kmは約3%の下り坂

8kmほど下って、地区唯一の信号「鬼無里」交差点で再び国道406号に入り、すぐ近くにある人気のおやき店「いろは堂 長野本店」や、隣接する「旅の駅 鬼無里・そば処 鬼無里」へ。どちらにもサイクルスタンドが備えられており、絶好の昼食スポットです。

今回は「いろは堂 長野本店」で小休憩。小麦粉とそば粉を練った生地に旬の野菜や山菜などをたっぷり詰めたおやきは、揚げてから焼く独自製法により、外はこんがり、中はもっちりの独特の食感が楽しめます。古民家風の落ち着いた雰囲気の建物も魅力で、この日も県内外から多くの利用客が訪れていました。

おやきに舌鼓を打ったら、一路、もうひとつの目的地である峰方峠(白沢洞門)へ。しばらく国道406号の裾花川沿いを進みます。

【国道406号】鬼無里中心部〜白沢洞門 約15km/平均勾配約3%の上り坂

温泉宿「鬼無里の湯」周辺では、今も茅葺屋根の民家が残る昔ながらの風景を眺めることができるので、足を止めてみるのもおすすめです。

本州最大規模のミズバショウ群落が広がる「奥裾花渓谷」への分岐から徐々に道幅が狭くなり、つづら折りの峠道に。静寂に包まれた山深い峠を淡々と進み、小川村を経て、すぐに白馬村に入ります。勾配は緩やかながら同じような風景の連続で、妙に長く感じられますが、北アルプスの絶景までもうひと踏ん張りです。

トンネルを経て、オレンジ色の鉄骨が見えてきたら、いよいよ峰方峠の山頂にあたる「白沢洞門」です。

洞門の出口の先に急に視界が開け、雄々しい山々が迫りくる風景は圧巻! 突然、別世界に来てしまったかのような景色に、思わず感嘆の声をあげてしまいます。多くのサイクリストがこの絶景を見るために遠方から訪れるというのも納得。今回は北アルプスが雲間から見える程度でしたが、それでも視界いっぱいに広がる美しい眺望に、上り切った達成感はひとしおでした。

吊橋越しに北アルプスを望み、長野市へとひた走る

どれだけ眺めていても見飽きない峰方峠(白沢洞門)の絶景に後ろ髪を引かれる思いで、白馬村中心部方面へ。7kmほど下ると、右側に見えてくるのは「大出公園(おおいでこうえん)」。ポスターや雑誌にもたびたび登場する白馬村を代表する観光名所のひとつです。展望台からは清流・姫川に架かる歩行者専用の「大出の吊橋」の背景に白馬三山が広がり、一枚の風景画のような景色が楽しめるフォトスポット。多くのカメラマンや画家に親しまれています。

白馬村から長野市方面へは県道33号へ。北アルプスの絶景が名残惜しく、何度も振り返って風景を眺めてしまいました。

【県道33号〜31号】大出公園〜道の駅中条 約26km/ほぼ平坦

この通りは緩やかなアップダウンが続くほぼ平坦な道で、ところどころで疲れた足を回復させながら進めます。ただし、長野オリンピックで整備された白馬と長野市を結ぶ主要道路だけあって、交通量が多いので要注意。なお、道中にはいくつかトンネルがありますが、いずれも並行して走る迂回路があるので、トンネルを回避できます。

また、途中の大町市美麻地区から長野市中条までの間には、道の駅「ぽかぽかランド美麻」「おがわ」「中条」の3つの道の駅があるので、休憩に合わせて地元の特産品を楽しむのもおすすめ。道の駅「中条」にはサイクルスタンドがあるため、今回はここで一度休憩をしました。

道の駅からは、下り基調の道を長野駅まで約20km。振り向くと、西側に壮大な北アルプスの峰々が顔をのぞかせていました。

こうして、走りごたえのある100km超のサイクリングは無事終了。ちょっと足を伸ばせば絶景が楽しめる長野市ならではの魅力にふれることができ、どこか遠くを旅したような達成感や余韻も味わうことができる自転車の楽しさを改めて実感したのでした。

 

コロナ禍の現在、感染リスクが少なく、健康維持にも環境にもよい自転車が注目を集めています。また、近年は電動アシストスポーツ自転車(e-bike)も人気で、体力に自信のない方でもサイクリングが楽しめるようになりました。興味があれば、ぜひ一度、自転車の旅にチャレンジしてみませんか。 「NAGANO CYCLING」では、今回のルートのほか、レベルに応じたさまざまなコースをご紹介しています。長野市を出発点としてサイクリングをお考えの方はぜひチェックしてみてください!

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