戸隠古道を歩く
安全で安心な自転車通行空間の整備を推進し、自転車を活用した魅力あるまちづくりをめざしている長野市。ながの観光コンベンションビューローのサイクルツーリズム専用サイト「NAGANO CYCLING」では、快適にサイクリングを楽しめるよう、サイクリスト目線での『走りやすさ』と『安全』にこだわったサイクリングモデルコースをご紹介しています。
今回はモデルコースのひとつ「棚田とアルプス眺望コース」を実際に走ってみました。
市街地は交通量の少ない線路沿いを 千曲川サイクリングロードは全線開通
「日本棚田百選」にも選ばれている千曲市の姨捨(おばすて)や長野市大岡の棚田の風景とアルプスの眺望を楽しめる「棚田とアルプス眺望コース」。麻績(おみ)村から大岡に抜ける県道の途中では、長野冬季オリンピックの開会式に登場した「芦ノ尻道祖神(あしのしりどうそじん)」を見ることもできます。
全長約90km。獲得標高1,300m超と、適度なヒルクライムを楽しめる中級者向けで、主に交通量が少ない里山やサイクリングロードを通過するので安心して走ることができます。
拠点は長野駅東口。輪行で長野駅に到着する場合は、この駅東口のエスカレーター下が長野市から推奨されている作業スペースです。専用エリアではないので、ほかの利用者の迷惑にならないよう配慮を。準備をしたら、いざ出発です。
【長野駅東口~軻良根古神社(からねこじんじゃ)】13.9km/ほぼ平坦なルート 前半は車に注意
コース序盤、サイクリングロードに入るまでの約14kmは、長野市街地を抜けるルート。ランドマークが少ない住宅街を走ることも多いので、あらかじめコースデータをサイトからダウンロードして進みましょう。サイクルコンピューターに取り込み、ナビに従って走ると安心です。
スタート地点の長野駅から犀川を渡る丹波島橋過ぎまでは、交通量の多い一般道を走るので、慎重に走る必要があります。ただ、JR川中島駅から篠ノ井駅まで続く線路沿いの道は一気に車通りが少なくなり、安心して走ることができます。
篠ノ井駅から先、千曲川サイクリングロードの合流地点である「軻良根古神社」までの約3kmも基本的には線路沿いを走りますが、入り組んだ道なのでコースデータに従って走行を。
千曲川が大きく曲がりくねった軻良根古神社一帯は、2019年の令和元年東日本台風(台風19号)の際に越水し、甚大な被害を受けたエリア。長らく通行止めになっていましたが、2021年7月に護岸災害復旧工事が竣工しました。
路面には高密度の骨材が使われ、滑らかで走りやすい道路に。神社前は以前の通り、自転車歩行者道と車道が隣り合う構造ですが、すぐ近くの平久保橋を渡った先は自転車専用道路になります。
武水別神社から先はヒルクライム 絶景の「姨捨の棚田」へ
【軻良根古神社~姨捨駅】約12km/前半6.3kmの武水別神社までは平坦ルート、後半の姨捨駅までは勾配約5%の上り坂
千曲川沿いのサイクリングロードを南へ進むと、お隣の千曲市に入ります。そのままサイクリングロードを進んでも最初の絶景ポイントの姨捨にアクセスすることはできますが、せっかくなので、地元で「八幡(はちまん)さま」の愛称で親しまれている武水別神社(たけみずわけじんじゃ)へ立ち寄ってみましょう。
神社の北側から境内に沿って南下し、道路をまたぐ大鳥居をくぐり抜けます。
この武水別神社は五穀豊穣と千曲川の氾濫防止を祈って祀られたとされ、厄除けや交通安全、開運祈願などで多くの参拝者が訪れています。
そのまま県道77号を車に注意しながら2kmほど直進。この区間は交通量が多いので慎重に進みます。前方に「さらしなの里」と書かれた看板のある建物が現れたら、JR姨捨駅方面へと右折。再び交通量が少なくなって走りやすくなると同時に、高度はぐんぐんと上昇します。標高551mの山の中腹に位置する姨捨駅まで、3.6kmのヒルクライムです。
後半にいくにつれて徐々に勾配があがり、食事処「さらしなの里展望館」を過ぎてしばらくすると、次第に右側の展望が開けてきます。眼下に田んぼや市街地が見えてきたら、姨捨駅まではもう少しです。
と言いつつも、姨捨駅にたどり着く前に小休止。線路の手前、棚田方面へと下る道を右折し、標高460~560mの傾斜地に大小約1500枚の水田が重なる「姨捨の棚田」の展望と、千曲川や善光寺平と呼ばれる広大な盆地が広がる絶景を存分に楽しみました。今回は青々と育つ稲穂の風景が広がっていましたが、春には水田に映る空、秋は黄金色に実った垂穂などを見ることができ、四季折々の景色を堪能したくなるスポットです。
なお、この「姨捨の棚田」は「日本の棚田百選」のほか、2010年には重要文化的景観にも選定されています。
ヒルクライムの先に広がる聖湖のさわやかな空気と達成感
「姨捨の棚田」を楽しんだ後は、線路を越え、姨捨駅前を通過して国道403号を聖高原方面へ。約2km登った先に位置する千曲川展望公園も小休止に最適なスポットです。
【姨捨駅~聖湖】7.8km/平均勾配5.3%の登り
聖湖まではそれなりに斜度がある長いコースですが、後半は緩やかな坂道で構成されているので、前半が頑張りどころ。つづら折りの峠道をひたすら登ります。
とはいえ、姨捨駅までの勾配に比べると斜度は緩いうえ、「聖高原・聖湖6km」と書かれた看板を過ぎたあたりからは、さらに少しずつ勾配が落ち着きます。千曲高原カントリークラブのコース脇はだいぶ緩やかで、森の中をテンポよく走れるように。終盤は穏やかなアップダウンが続き、視界が開けたら麻績村境を越えて標高1,000mの聖湖に到着です。さわやかな湖畔の風景も相まって、達成感と爽快感に包まれます。
「アルプス展望道路」を抜け、インパクト大の「芦ノ尻道祖神」へ
聖湖でしばし休憩を。ここからは一気に麻績村中心部方面に下降します。平均勾配マイナス5.8%の下り坂で、ところどころガタつきはあるものの、全体的には路面がきれいで道路幅もあるので安心して走ることができます。
コースは5.7km下った先にある「本町」の信号を右折します。この先しばらくは補給ポイントがないので、2度目のヒルクライムに備えて本町信号を超えた先にあるコンビニでの補給がおすすめ。
【麻績村本町信号~芦ノ尻道祖神】11.5km/前半8kmは平均勾配3%ほどの登り、その後3.5kmは下り基調の緩やかなアップダウン
「本町」の信号から交通量の少ない県道12号線へ。善光寺街道麻績宿を抜け、住宅街や畑が広がる聖山山麓を登る序盤がこの区間でもっとも勾配がきつい箇所。4kmほど登り、宿泊施設「シェーンガルテンおみ」のあたりからは次第にアルプスの眺望が開けます。
その後、視界が開けたり、林の間を抜けたり……を繰り返しつつ、小さな山間の集落を結ぶようにつながる坂道を登っていくと、標高900mの麻績村桑関(くわぜき)集落をピークに、緩やかな下りに。そこからはほどよい起伏を繰り返し、長野市大岡地区へ。道路はサイクリストやバイカーに人気の「アルプス展望道路」と呼ばれるルートになります。
こうして長野市大岡笹久(ささきゅう)集落に入ると視界が開け、晴れた日は里山が連なる先に北アルプスの山並みが迫る雄大な風景が広がります。
道路沿いの火の見櫓の横には「アルプスささきゆう」と書かれた気になる小屋が。手作りの山の名前の案内板や集落の地図があり、思わず立ち寄りたくなるスポットです。
ここから再びアップダウンを繰り返し、500mほど進んだ左側に見えるのが、笹久集落の8戸が中心となって保全活動に努める「原田沖の棚田」。こちらも「日本の棚田百選」のひとつです。さらに1kmほどで芦ノ尻道祖神のある展望台が見えてきます。
芦ノ尻道祖神とは、長野市大岡芦ノ尻集落の人々によって、毎年1月7日に各戸から集められた正月飾りのしめ縄で作られる神面装飾道祖神。悪霊や疫病より集落を守る守護神とされ、1997年に長野県の無形民俗文化財の指定を受けました。翌98年の長野冬季オリンピックでは開会式に登場。世界中の人々の注目を集め、歓迎を受けたのです。迫力満点ながらユーモラスな表情が特徴で、毎年作り替えられるため、微妙に表情が異なる点もユニーク。道路からは見えない場所に鎮座しているため、展望台から回り込むようにアクセスを。
北アルプスの眺望と自家栽培の野菜が楽しめるランチスポット
そのままアルプス展望道路を進み、標高800~900mのアップダウンを繰り返しながら、大岡支所や大岡小学校を経て、約5km先の大岡アルプス展望公園へ。
【芦ノ尻道祖神~大岡アルプス展望公園~大岡温泉】7.4km/アップダウンの連続
「北アルプス展望台入り口」の看板が見えたら、大岡アルプス展望公園はすぐです。小高い丘からは、晴れた日には眼前に広がる白馬連峰を一望できます。
昼休憩は、公園脇にある「カフェテラス・モモ」で。自家栽培の穀物や野菜を使った天然酵母パンと食事が楽しめるベジタリアンカフェです。
自家製トマトソースのピザや、かぼちゃのフライと雑穀ハンバーグなどをはさんだ2個セットのベジバーガーなど、ヘルシーながらも食べごたえ十分。野菜の味を生かしつつもしっかりした味付けで、デザートにはフルーツたっぷりのかき氷まで堪能してしまい、満足度の高いランチが楽しめました。
コース終盤戦 目玉は県下最大級の種籾圃場「田野口の棚田」
お腹を満たしたら、約3km先の大岡温泉へ。温泉の西側に広がる「慶師沖(けいしおき)の棚田」も「日本の棚田百選」のひとつで、北信五岳や北アルプスを望む美しい棚田です。
【大岡温泉~信更(しんこう)町の田園風景】11.8km/序盤1kmが勾配5%ほどの登り、その後約10kmは緩やかな下り
大岡温泉から1kmほどが最後の踏ん張りどころの上り坂。こうして県道395号に入り、大花見池を過ぎたあたりからは長野市信更町「田野口の棚田」まで10kmほどの下りになります。交通量は少ない山道ですが、道路幅が狭いところもあるので注意が必要です。
次第に右側に、広大な「田野口の棚田」が見えてきました。聖川沿いにおよそ3㎞の長さで整備されている高低差約100mの緩斜面の棚田です。一帯は約65haの規模を誇る県下最大級の種籾圃場で、コシヒカリを中心に数品種を栽培。作られた種籾(水稲種子)は県内を中心に出荷され、長野県の農業を支えています。厳しい管理のもと、きちんと整備されているからこそ、整然と連なる美しい棚田が見られるのです。
ちなみに、この信更町田野口地区は長野市内有数のホタルの生息地でもあります。毎年6月下旬にはホタルまつりが開催され、初夏の風物詩として親しまれています。
「田野口の棚田」からゴールの長野駅東口までは、ほぼ平坦な18.5km。往路と同様に、篠ノ井エリアから川中島駅までは再び線路沿いを走ります。川中島駅から長野駅までは、車に注意しながら走行を。長野駅を目指し、いよいよゴールです。
里山ならではの棚田のある風景や北アルプスの絶景をさまざまな角度から楽しめた今回のコース。芦ノ尻道祖神など地域に根付いた文化にも触れられ、長野市民にとっても知る人ぞ知る、穴場のようなルートを楽しむことができました。全体的に交通量が少なく、それなりに斜度のあるヒルクライムもあるので、ほどよい疲れとともに充実感を覚えたライド。適度に休憩スポットもあるので、自分の体力や脚力に応じて自転車を進められること、間違いなし!
「NAGANO CYCLING」では、今回のルートのほか、初心者から上級者向けまで、レベルに応じたさまざまなコースをご紹介しています。長野市を出発点としたサイクリングを楽しみたい方はぜひチェックしてみてください。
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